射影空間入門
代数幾何学では代数多様体(正確にはアフィン多様体)を体(四則演算可能な集合。一般には可換環、特にネーター環。)上の多項式\(f \)の零点集合(\(f=0 \)を満たす点の集合)と考える(ex. \(x^2+y^2-1=0 \)は\(x, y\)に関する多項式の零点集合、即ち半径1の円を表す)。このときその零点の数は多項式の係数の連続変形で不変、つまり、多項式の零点の数は位相不変量と考える事が出来る(ベズーの定理とその一般化)。
しかし、例えば異なる2つの実数解を持つ2次方程式
$$ax^2+bx+c=0 \quad (*)$$
に対し、係数\(a\)を0に近づける極限では(*)は1次方程式になってしまう事から、一見解は1つになり、上記の定理は満たさない様に見える。
このことを理解(うまく定義)する為には射影空間というものを理解しなくてはならない。射影空間とは大雑把に言って与えられた空間の1次元低い空間に"無限遠集合"を付け加えた様な集合である。特に射影空間は代数多様体である。
定義を述べよう。
\(k\)を体とする。体\(k\)の\(n\)個の直積\(k^n\)をにk-加群構造を定義したものをアフィン空間\(A^n_k\)と呼ぶ。アフィン空間に次の同値関係を定義する:
$$x\sim y \quad (x,y\neq 0) \Leftrightarrow \lambda (\neq 0) \in k, \quad x=\lambda y$$
この時\(A^n_k-{0}\)をこの同値類で割った(同値な要素をひとまとめにした)空間\(kP^n:=A^n_k/\sim \)を\(n\)次元(\(k\))射影空間と呼ぶ。
…これだけ言われても何のことか分からないかもしれない。簡単な例を挙げよう。
①1次元実射影空間 \(\mathbb{R}P^1\):
これは2次元の実平面上の原点を通る直線全体の成す空間となる。また、この空間は半径1の円の(\(0<\theta\leq\pi \))部分と同一視され、特に\(\theta=\pi \)の部分は”無限遠点”を表す。ちなみに\(\theta=0\)と\(\theta=\pi\)はつながっておりコンパクトになっている。実はこの事は一般の実及び複素射影空間で成り立つ。
少し補足する。即ち原点でない点\(A=(x,y)\)と点\(B=(x',y')\)が同値であるとは2点\(A,B\)が原点を通る同じ直線の上にあることと定義される。従って同値となる点を同一視したこの空間は\(\mathbb{R}^2\)上の原点を通る直線1つ1つを要素と考える様な空間であると理解出来る。
しかし直線を"点"だと思うのは少し難しい(同値類の考え方に慣れていれば良いのかもしれないがモノを塊で見るよりは"代表元"をとってきて点だと思って議論する方が分かりやすいだろう)。そこで"一つの直線に対し一つの点"を対応させるべく半径1の円の(\(0<\theta\leq\pi\))部分を用意する。すると、任意の\(\mathbb{R}^2\)上の要素(原点を通る直線)はこの上半円と交点を持ち、その直線と交点は1対1に対応することがわかる。従って\(\mathbb{R}P^1\)を半円と見なすことが出来る。特に\(\theta = \pi\)のとき\(\theta = 0\)の直線と等しいことから半円は円の構造を持つ事がわかる
$$\mathbb{R}P^1 \approx S^1$$
ここで\( S^1\)は円周を意味する。
また等価であるが、この先を考えてもう一つの解釈について補足する。それは
・\(y=1\)(x軸と平行な直線)を考えると、\(y\neq0\)の同値類の代表元\((x, 1)\)と同一視される
→ この直線は\(y\neq0\)
・\(y=0\)(x軸)を考えると、\(y=0, x\neq 0\)の同値類の代表元\((x,0) \sim (1,0)\)と同一視される
→ この点は上記の\(y=1\)の直線と無限遠点で交わる様な0次元空間\(\mathbb{R}^0\)(無限遠点)
であるから、結局この様な場合分けを経て、1次元射影空間は
$$\mathbb{R}P^2 \approx \mathbb{R}^1 \cup \mathbb{R}^0$$
と書ける事が分かる。
②2次元実射影空間 \(\mathbb{R}^2\):
・3次元空間\((x,y,z)\)を考える
・\(z=1\) (x-y平面と平行な平面)を考えると、\(z\neq0\)の同値類の代表元と同一視される
→ この平面は2次元空間\(\mathbb{R}^2\)
・\(z=0\) (x-y平面)を考えると、これは\((x,y,0)\)という1次元射影空間を考える事と同じである。更に、
・\(y=1\)(x軸と平行な直線)を考えると、\(y\neq0\)の同値類の代表元と同一視される
→ この直線はc(無限遠直線)
・\(y=0\) (x軸)を考えると、\((x,0,0) \sim (1,0,0)\)より一点と成る
→ この点は0次元空間\(\mathbb{R}^0\)(無限遠点)
であるから、結局この様な場合分けを経て、2次元実射影空間は
$$\mathbb{R}P^2 \approx \mathbb{R}^2 \cup \mathbb{R}^1 \cup \mathbb{R}^0$$
と書ける事が分かる。
③n次元実射影空間 \(\mathbb{R}P^n\):同様に\(n\)次元実射影空間\(\mathbb{R}P^n\)は
$$\mathbb{R}P^n \approx \mathbb{R}^n \cup \mathbb{R}^{n-1} \cup \cdots \cup \mathbb{R}^1 \cup \mathbb{R}^0$$
と書ける事が分かる。
こうして\(n\)次元射影空間は空間をより低い次元の\(n\)個の空間に分けて考える事が出来る。
メモ:
① n次方程式の解の個数の数え上げ問題を考える。例えば、2次方程式について考える。2次方程式、
$$ax^2+bx+c=0$$
の解の個数は、解の公式からその判別式を用いることで判定出来る。しかし、1次方程式に極限をとったとき\((a\rightarrow 0)\)その解の数の振る舞いを考えると、いわゆる解の公式から性質を知ることが出来ない。
しかし、射影空間を考えると無限遠点を意味のある点として考えることが出来るので、1次方程式に漸近する2次方程式の解はその一つが無限遠点に行くことを確認することが出来る、というわけである。
② この考え方を一般化して、多変数、高次、連立方程式に対して同様のことが出来る。しかし、過剰交差の考えなど様々な難点がある。
Ref.