圏, 導来圏入門文献表
この10年、数学の世界に限らず、物理学の世界や情報学の世界でも圏や導来圏という言葉がよく聞かれるようになりました。しかし、何も知らない人が勉強するのは大変(導来圏の定義を紹介するブログはこちら)だと思いますし、しかも、どんな文献が良いのかよくわからない!という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回のブログでは圏や導来圏の簡単な入門の為の文献表(全く完全なものではありませんので適宜更新していきます)を書いてみました。
まず数理科学の記事は短くまとまっていて入門には最適でしょう(なかなか手に入らないですが...)。手に入るなら一読をお勧めします:
数理科学 2008年3月号 No.537
「特集:現代物理のための数学キーワード」
・「圏と関手」~物理的対象の記述言語になるか?~ 小林正典
・「層」~現代数学における「図形」~ 橋本義武
数理科学 2012年8月号 No.590
「特集:導来圏をめぐって」
・「導来圏の雰囲気」 高橋篤史
・「速習!導来圏」 上原北斗
また、SGCライブラリシリーズにもいくつか。
SGCライブラリ75 臨時別冊・数理科学2010年7月
「数物系の為の圏論」~ 導来圏,三角圏,A∞圏を中心に ~ 梶浦宏成
:1章は自由に。抽象代数、ホモロジーに慣れているなら2、3章を飛ばし、4章の導来圏と、5章の三角圏の定義くらいまで読まれると良いでしょう。
SGCライブラリ89 臨時別冊・数理科学2012年4月
「弦理論の代数的基礎」~ 環・加群・圏から位相的弦理論,ミラー対称性へ ~ 高橋篤史
:上記本の補完版という印象。記述が堅く、好き嫌いは分かれそうですが、集合や圏の構成にも言及しており、一読の価値ありです。本書の著者が書いた公開講座の資料もおすすめです。
数理科学以外では:
加藤五郎, "コホモロジーのこころ", 岩波書店:
この本は色々分かってから読むと愉しい。手元に置けるなら一先ず本棚に飾っておくのもアリです。
戸田幸伸, "連接層の導来圏に関わる諸問題", 数学書房:
本書は本書出版まで和書には無かった連接層の導来圏に関する入門書です。特に、本書はこの分野で名を馳せている若手研究者で、内容も、入門から最新の事情まで詳しく書かれているので非常におすすめです。
上原北斗, 戸田幸伸, "連接層の導来圏と代数幾何学", 丸善出版:
こちらは、上記戸田さんの本をより数学的な立場からまとめたもので、私自身、しっかり読めていないのでこれから挑戦していきたい本です。
ネットに落ちている解説記事達:
ホモロジー代数と導来圏:
必要最低限のことがさくさく書いてあるので、人に依ってはつまらないかもしれないが、ゼミ等で使うのには良いかもしれない。
加藤 希理子, "三角圏とホモロジー代数":
前半部分は圏の局所化と安定圏から三角圏の構成、導来圏の入門として良い。後半部分は三角圏の局所化についてモリモリ書いてある。
川又 雄二郎, "代数幾何学と導来圏":
後半はかつかつの内容になりますが、第二節までは圏論自体の導入にも成っていて良い資料。
arXiv内の資料:
Bob Coecke, "Introducing categories to the practicing physicist", arXiv:0808.1032 (2008),
R. P. Thomas, "Derived categories for the working mathematician", arXiv:math/0001045 (2001),
Eric Sharpe, "Lectures on D-branes and Sheaves", arXiv:hep-th/0307245 (2003),
Eric Sharpe, "Derived categories and stacks in physics", arXiv:hep-th/0608056 (2006),
:これにはスライドがあります。
ブログにもいくつか良いものがあります:
檜山正幸のキマイラ飼育記(はじめての圏論):プログラマー的観点から圏論を描いたページ。様々な話題について独創的に描かれていて興味深い。
数学の犬:代数トポロジー周辺の言葉を現代風(圏)の言葉で描くべく、解説記事や文献へのリンクが豊富なページ。
Algebraic Topology:代数幾何学、圏論等の言葉を検索していると、必ずと言っていいほど引っかかるページ。多くの概念の関係や文献表が載っているのがありがたい(本人曰く自分用のメモとの事)。このページの作者はトポロジーの本を出している。
私が印象に残ってるのは一先ずこんな感じです。